心理的安全性の「絶大な効果」理解すれば最適な職場環境を作り出せる
心理的安全性という言葉を知っていますか?
対人関係において不安や失敗に怯えることなく、安心して発言や行動をできる状態をいいます
メディアでよく取り上げられているけど難しそうだと思っている方に、今回は職場における心理的安全性の入門編をご紹介します。
理解すれば最適な職場環境を作り出すことができますよ。
目次
心理的安全性とは?
心理的安全性という言葉はGoogleの研究者が取り上げて以来、注目を集めるようになりました。
その研究者たちはチームを成功に導くのに重要な5つの要素のうち、心理的安全性が「圧倒的に重要である」と結論付けています。
この研究は、Amy Edmondson氏が提唱した「チームの心理的安全性」をベースに行われています。
Googleのサイトでは「チームの心理的安全性」の定義が下記のようにうたわれています。
「対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームでは安全であるという、
Google re:Work 「効果的なチームをとは何か」を知る
チームメンバーによって共有された考え」
簡単な言葉に言い換えると、チームの目標を達成するために犯した失敗や、一見したところ無益に見えるアイデアや行動、無駄に思える質問に対してチームのメンバーが寛容であるということです。
・なぜ心理的安全性が重要視されているのか
それではなぜ、心理的安全性に対する関心が高まっているのでしょうか。
様々な理由が考えられますが、大きな理由の1つが在宅ワークの普及です。
在宅ワークが広まるにつれ、オンラインコミュニケーションのもどかしさや、離れた場所で働くメンバーをまとめる難しさを多くの人が感じています。
心理的安全性を確保することで、新しい働き方にまつわる悩みを解決することができるのではと期待されているのです。
実際に、心理的安全性は組織に様々なメリットをもたらします。
心理的安全性を確保することによるメリット
ー生産性の向上
心理的安全性が確保されているチームのメンバーは人の顔色をうかがって発言を躊躇したり、失敗を恐れてチャレンジを回避したりしません。
対人関係のリスクがないため自分の意見を気兼ねなく発言し、能力を最大限に発揮するために積極的に行動します。
チームは目標を達成することのみに集中することができるので、効率的に仕事を進めることができます。
ー情報共有機会の創出
心理的安全性の高いチームでは、立場に関わらず自由に発言することが奨励されます。
自分の考えや経験、知識を偏見やバイアスがない状態で共有することができるので、メンバーは多種多様なアイデアを比較検討できると同時に知識を増やすことができます。
一般的に、人は経験豊富な人や専門家、役職の高い人の意見が正しいと思う傾向にあります。
しかし、常識にとらわれない発想や全くの素人が感じた疑問から新しいビジネスが生み出されていることも事実です。
イノベーションが求められるビジネス環境を生き抜くためにも、自由な発想は欠かせません。
ー事業の持続性
心理的安全性が保たれているチームでは、間違えたこともオープンに話し合うことができます。
ミスが発生した場合には犯人探しをするのではなく、客観的に原因を究明しようとします。
より素早く根本原因を突き止めることができ、ミスの隠ぺいなど企業にとって致命的な事態が起きるのを防ぐことができます。
心理的安全性の罠
ー表面的な理解では意味がない
心理的安全性を担保することで組織を強くすることができる一方、心理的安全性の定義を正しく理解できていなかったために、職場環境が悪化してしまうケースもあります。
例えば、「自由に発言できる」ということは、「チームの目標を達成するために必要なことを」自由に発言できるという条件が付いています。
個人的な感情を思うままに口にしてよいわけではありません。
目標を達成するにあたって、他のメンバーや上司のアイデアではうまくいかないと考えるのであれば、自分なりの代替案を建設的に説明することが必要です。
誰かの意見が気に食わないから、個人的に攻撃するのとは全く異なります。
また、心理的安全性が高いことは必ずしも居心地の良い環境を指すわけではありません。
メンバーが親身になってどんな意見にも耳を傾け、助けてくれるアットホームな職場でも心理的安全性が低い場合があります。
上司が重大な失敗をした場合、面目を保つために見逃すことと、たとえ相手が嫌な思いをしてもそれを的確に指摘することは正反対の結果をもたらします。
ーものまねでは失敗する
心理的安全性とその定義は、海外で生み出されたものです。
したがって、そのまま真似をしてしまうと日本人中心の企業ではうまく機能しない可能性があります。
議論の方法の一つをとっても違いは明らかです。
多様なバックグラウンドを持つ人たちが集まる多国籍企業では分かり合えないことが前提となっているため、ストレートな物言いをし徹底的に意見を戦わせます。
ところが日本人は婉曲的な表現を好み、空気を読もうとする傾向があります。
グローバル企業での方法を日本人同士のミーティングに適用させ、自由な発言を促そうとしても難しいかもしれません。
心理的安全性を上手に活用するには
ー組織の本質的な問題の選定
心理的安全性を活かすためにまず認識すべきなのは、心理的安全性は万能ではないということです。
心理的安全性を高めることで、チームで起こっている問題を全て解決できるわけではありません。
チームで何を成し遂げたいのか、チームに何が足りないのかを明確にする必要があります。
Googleのサイトre:Workでは、効果的なチームにするために下記の5つの要素が必要だとしています。
心理的安全性は最も重要な要素として位置付けられていますが、あくまで5つの要素の中の1つです。
・心理的安全性
・相互信頼
・構造と明確さ
・仕事の意味
・インパクト
心理的安全性を高めれば意思決定がスムーズになったり、従業員のモチベーションが上がるわけではありません。
例えば、意思決定をスムーズにするには有効な意思決定プロセス(構造と明確さ)が、モチベーションを上げるにはスキルアップの機会(仕事の意味)や目標設定(インパクト)が必要とされます。
心理的安全性にとらわれずチームの問題を明確にし、どの要素が足りないのかをまず把握しなければなりません。
ーマネジャーの意識改革
もしチームのリーダーが従来型の日本式マネジメントをしているのであれば、心理的安全性を確保するためにマネジメント方法を変える必要があるかもしれません。
プル型と呼ばれるマネジメント方法が、日本ではこれまで主流とされてきました。
プル型は心理的安全性に必要な発言しやすい雰囲気作りにおいて障壁となっています。
部下が上司に質問や報告をする際、上司のデスクまで行きお伺いを立てます。
話しかけに行くことは、話しかけられることより労力を必要とします。
特に相手が自分よりも上の立場の場合は、タイミングや機嫌を見計らうので気軽に話せる雰囲気とは異なります。
心理的安全性を高めるためには、プッシュ型のマネジメントが高い効果を発揮します。
プッシュ型ではマネジャー側が積極的に従業員とコミュニケーションをとるよう努力します。
マネジャー自身がコミュニケーションの機会を作ることで、従業員は安心して自分の考えを伝えたり相談することができます。
心理的安全性が低い組織はどのようになってしまうのか
ー無知、無能だと思われる不安
心理的安全性の無い組織では初歩的な質問をすると見下されたり、失敗をしたことを報告しづらい雰囲気があります。
従業員は自分の能力を疑われたり、ミスをしたことで叱責を受けたりするのではないかと疑心暗鬼になり、学びの機会を逃してしまいます。
ー拒絶される不安
心理的安全性が低いチームのメンバーは、チームに悪影響を与えるのではないかと、自分の考えを述べたり提案をすることに消極的です。
例えば、会議中に他のメンバーが賛成し結論がまとまりかけている場合、反対意見をもつ少数派のメンバーは疑問を投げかけることを諦めてしまいます。
議論が複雑化することを避けようとしたり、自分と違う意見を拒絶したりする同調圧力がチームの中に存在するからです。
ー企業存続
心理的安全性が低いチームには、誰かの失敗をとがめる風潮が根付いている傾向があります。
メンバーは批判されることを恐れ、ミスをしても報告することに抵抗を覚えてしまいます。
この場合、他者の失敗から学んだり、学んだことを活かすことはできません。
発言しづらい環境は隠ぺいやごまかしを常態化させ、企業の存続問題へ発展する可能性があります。
大手企業で相次ぐ不祥事は、こうした心理的安全性の低さが原因かもしれません。
心理的安全性の高い組織とは
チームに心理的安全性があるのかを知るためには、心理的安全性を測る基準が必要になります。
日本国内において心理的安全性は比較的新しい分野の学問であるため、日本社会に適した基準はまだ確立されていません。
しかし、心理的安全性を可視化し企業や組織が取り入れやすいようにしようという取り組みが始まっています。
・心理的安全性の測定方法
「心理的安全性のつくりかた」の著者である石井遼介氏は、HRpro掲載のインタビュー記事の中で、日本型の組織において心理的安全性を感じることができる4つのファクターをあげています。
4つのファクターを組織内に根付かせるためには、マネジャーやリーダーの「心理的柔軟性」を高める必要があります。
心理的柔軟性はリーダーシップを発揮するためのスキルであり、例えば下記のような行動がとれるかどうかが問われます。
・ステレオタイプのリーダー像にとらわれず、チームにとって本当に役立つことを最優先する
・自分たちの仕事の意義や価値を明確に示すことができる
・前例の通用しない事態が起きても現実を直視し、新しいアイデアや方法を積極的に取り入れている
心理的安全性の高い組織とは、マネジャーが心理的柔軟性を発揮できている組織です。
マネジャー自らが心理的柔軟性を意識できているか自己評価をすることが大切です。
・従業員一人ひとりによる取り組み
心理的安全性は管理者のみが積極的に取り組んでも確保されるものではありません。
組織のメンバーの一人ひとりが常に意識をすることが大切です。
「チームの心理的安全性」の提唱者であるAmy Edmondson氏よると、心理的安全性の高い職場は従業員が次の3つを実践できている職場です。
・仕事を実行の機会ではなく学習の機会と捉える
・自分が間違うということを認める
・好奇心を形にし、積極的に質問する
具体的な心理的安全性の高め方
それでは、心理的安全性はどのように高めたらよいのでしょうか。
具体的な例をご紹介します。
・発言機会の創出
誰もが発言できる環境を整えるには、会議のルールを決めたうえでメンバー全員に周知します。
一般的に、会議ではリーダーや発言力の大きい人に発言機会が偏りがちです。
ブレインストーミングの手法を活用するなどして、参加者一人ひとりが平等に発言できるようにします。
例えば、スリップライティングという手法を用いれば、意見を公平に結論に反映することができます。
付箋などに参加者全員がそれぞれ自分のアイデアを書き込み、ファシリテーターに提出します。
その際、発言してはいけないので、バイアスがない状態で全員から意見を募ることができます。
・新しいマネジメントの導入
部下の指導、管理方法も見直す必要があるかもしれません。
いきなりプッシュ型のマネジメントに切り替えるのは難しいですが、One on Oneミーティングを導入するだけでも心理的安全性を高めることができます。
部下と1対1のざっくばらんな対話をする機会を設けることで、部下の上司に対する信頼感だけではなく、所属するチームや部署に対する意識も良い方向へ変化させることができます。
従業員が組織に対する信頼感を持つことができれば、発言しやすい雰囲気を築くことができます。
まとめ
組織内に心理的安全性を効果的に浸透させるには、マネジメント方法を始め様々な意識改革が必要なことがわかりました。
まだまだ発展途上の日本式心理的安全性ですが、チームで働くメリットを最大化させ、先行きの見えにくいビジネス環境で成功を収めるためには必要なアプローチだといえます。