上手にオフィス移転を進める方法 スケジュール管理などやるべきことは?
入れ替わりの激しい東京23区でも、オフィステナントの平均入居期間は10年程度。
企業にとってオフィス移転はめったにない一大イベントであり、社内ノウハウがなく精通している人材はほとんどいません。
そこで基本的なオフィス移転の知識をまとめました。
目次
オフィス移転はなぜ必要?
森ビル株式会社が2020年に東京23区の企業を対象に行った調査によると、
オフィス移転の理由として「賃料の安いビルに移りたい」と回答した企業が最も多く、37%を占めています。
2019年の調査と比較すると18%も上昇しており、パンデミックという特異な状況による影響といえそうです。
続いて、約30%の企業が「立地の良いビルに移転したい」と回答。
「耐震性の優れたビルに移りたい」「設備グレートの高いビルに移りたい」もそれぞれ約20%を占めるなど、
働く環境改善を目的とした理由が続きます。
2019年の同調査では44%を占めていた「新部署設置、業容・人員拡大」は14%にとどまっており、
オフィス拡張を目的とした移転は下火となっています。
それでも、パンデミック以前はオフィス移転の圧倒的な理由であったことが見て取れます。
・オフィス移転のメリット
上記のデータからも読み取れるように、オフィス移転のメリットとしては主に下記の3つが挙げられます。
*コスト削減
オフィスを移転するのにもそれなりの費用がかかります。
しかし、現状のオフィスから賃料の安いオフィスに移転した方が、全体のランニングコストを抑えることができます。
*働く環境の改善
オフィス移転はペーパレス化やABWなど新しい働き方の導入や、カフェなどの新しい機能をオフィスに取り入れる絶好の機会です。
こうした新しい施策によって従業員の働く環境を改善することができれば、従業員の定着率や採用率、企業イメージの向上につながります。
*業務の効率化
業務効率を改善するためには余裕のあるオフィス構築をする必要があり、人員が増えた場合に拡張移転は欠かせません。
手狭になったオフィスでは会議室や集中して働くスペースの確保が難しかったり、デスク配置を工夫する余地がなくなるため、
従業員同士のコミュニケーションに問題が発生する恐れがあります。
・オフィス移転のデメリット
2020年6月に国土交通省がまとめた資料によると、オフィス施策を実施するにあたっての懸念事項として、
調査に参加した企業から下記のような回答を得ています。
パンデミックという不測の事態にあり、
多くの企業が今後のオフィスのあり方を検討する材料自体が不足していると感じているようです。
不確定要素の多い中でオフィス移転を計画する場合、想定されるデメリットとしては下記の2つが考えられます。
*オフィス移転が環境改善につながらない
多くの企業にとって、移転は働く環境改善のチャンスです。
しかし、それなりの費用をかけても効果的な対策を講じることができず、現状維持の移転となってしまったり、
他社の成功事例を参考にしたものの失敗に終わってしまうケースも少なくありません。
*オフィスへの過小評価
テレワーク標準化を決断した企業の中には、縮小移転に踏み切った企業もあります。
しかし、様々な調査でも明らかになっているように、オフィスに依存しない働き方には解決しなければならない課題があります。
その一つが従業員間のコミュニケーションの量と質の低下です。
コミュニケーションを補う場として、オフィスが果たせる役割は今後ますます大きくなります。
無計画のまま縮小移転してしまうと、リアルなコミュニケーションと帰属意識を育む機会を従業員から奪うことになりかねません。
ーデメリットはなくせる?
上記で述べたデメリットは、現状の問題把握およびリスクの事前評価をすることで回避することができます。
こうした失敗は移転後のオフィスや新しい働き方にばかり注目し、現状のオフィスの抱えている問題や、状況の把握が不十分なため起こります。
比較対象がなければ移転後のオフィスを評価することや、さらなる改善点を見出すことが不可能だからです。
先行きが不透明な状況だからこそ、現状の把握に時間を割く良い機会かもしれません。
まずは現状をよく把握し、何のためにオフィスを移転するのか目的を明確にすることが必要です。
オフィス移転のスケジュール
実際にオフィスを移転する計画が持ち上がった際は、綿密なスケジュールを立てることでトラブルや「こんなはずではなかった」を回避することができます。
・現在のオフィスの解約
現在のオフィスを解約するにあたり、確認すべき事項としては下記の3つです。
□解約予告期限
オフィスを移転する際はまず、現在契約しているオフィスの管理会社やオーナーに事前に解約予告をしなければなりません。
オフィス移転を具体的に計画する前に、賃貸借契約書を確認するようにしましょう。
解約予告期間や中途解約条項など事務所解約において条件が記載されているので、
その条件に沿って手続きを進めていく必要があります。
□預託金の返還スケジュール
預託金の返還についてもなるべく早めに確認しましょう。
預託金は退去までにテナント側に賃料の未払いなどがない限り、契約が終了すればテナント側に返還されます。
したがって、事前に返還時期や金額などを明確にしておく必要があります。
□原状回復の条件と費用
原状回復とは、テナント側が入居していたオフィスを入居前と同様の状態に戻すことを指します。
一般的に退去する際にはテナント側が行い、費用もテナントが負担します。
トラブルを回避するためにも、原状回復する範囲や工事業者の選定方法などを事前に管理会社やオーナーに相談、確認しておきましょう。
・オフィス移転先の物件探し
オフィス移転の目的に応じた物件探しは非常に重要な項目です。
特に下記の4項目を確認しながら進めていきましょう。
□立地
オフィスの立地と周辺環境は企業のあり方を大きく左右します。
駅が近くにあれば通勤や顧客、取引先への訪問がしやすくなります。
食事ができる場所が近くにあるかどうかは福利厚生に関わってくるかもしれません。
また、ビルのスペックも企業イメージや採用率に影響するので十分検証することが重要です。
□費用
人気のエリアにオフィスを構えることは従業員のモチベーションや採用率のアップ、企業イメージの向上に一役買うでしょう。
しかし、必然的に賃料が高くなるのでオフィス移転の目的と費用対効果を鑑みて検討する必要があります。
近年、移転時のコストを抑える目的で居ぬき物件を有効活用する事例も増えていますが、
自社のオフィスの使い方や与件と合致していない場合は、かえって費用が掛かってしまうこともあるので注意が必要です。
□面積
企業規模や今後の見通しに見合った面積の物件を選定することも非常に重要です。
借りる面積の大きさは賃料と相対関係にあるので無駄は省きたいところですが、
従業員の働きやすさにも関わってきますので、どのくらいの面積が必要なのか十二分に検討する必要があります。
□設備
設備面において全てを満たす物件を探すのは難しいので、優先順位をあらかじめ決めておくことがポイントとなります。
例えば、システムやゲーム開発を生業とする企業では電気容量が重要となってきます。
また、従業員数の多い企業の場合は換気容量が足りずに増設となってしまったりと、思わぬ費用が掛かってくる場合がありますので、
企業の特性に応じて確認することが大切です。
ーおすすめの間取り
オフィスビルといってもその形状は様々です。
企業の規模やオフィス移転の目的に合ったフロアプランを選定することも重要です。
下の図は世界的不動産サービス企業CBRE株式会社が同社のサイトに掲載している東京の主な大型オフィスビルのフロア図です。
緑色に塗ってあるエリアが実際にオフィスとして使用できるエリアで、
灰色のエリアが一般的に共用部(エレベーター、非常階段室、ビル廊下など)と呼ばれるエリアとなっています。
こうしてみてみると、それぞれ特徴があることがわかります。
例えば、KDX豊洲グランスクエアに代表される、ロの字型のフロアを全てオフィスとして使用する場合、
回遊導線で全体をつなぐことができるので、各部署のコミュニケーション活性化という意味においては
理想的なビルといえるかもしれません。
一方で、パレスサイドビルやガーデンシティ品川御殿場では、横に長く伸びた共有部がオフィスエリアを分断してしまっています。
分断されている2つのエリアに入居する従業員間のコミュニケーションの機会が減り、
オフィス全体としての一体感に欠ける可能性があります。
・オフィスの移転日の決定
解約予告期間を念頭に置いて業務に空白が生まれないよう、かつなるべく無駄のない移転スケジュールを立てることが重要です。
規模や内容にもよりますが、プロジェクトの期間は一般的に移転プロジェクトが立ち上がってから移転日まで少なくとも1年程度必要です。
・新しいオフィスの設計
オフィスの設計には専門的な知識が必要なほか、各所との調整や交渉、書類提出など時間も労力も必要な業務であるため、
専門業者に依頼することが一般的です。
その際に施主側の業務となるのは、大別すると下記の2項目となります。
□業務を依頼する業者の選定
コンペを開催するなどして、オフィス設計会社や、必要に応じてプロジェクトマネージメントの業者を選定します。
もしくは、随意で付き合いのある業者さんなど信頼のおける会社に業務を依頼します。
いずれにしても、施主側ではオフィス移転に必要と思われる定量的な与件(人数や個室の数など)や、
定性的な条件(移転の目的、移転に際して達成したいことなど)をまとめておく必要があります。
□実際のプランの作成と確認
依頼する業者が決まったら、与件を踏まえながら、図面や3Dパースなどにプランを落とし込んでいきます。
その際、きちんと要件を満たしているか、コストは範囲内に収まっているか、法規的に問題はないかなど業者と一緒にチェックしていきましょう。
もし希望と違う部分があれば、修正を依頼したり別の提案をしてもらいます。
納得できるまで計画をブラッシュアップすることが大切です。
・移転準備
オフィスの計画が具体的になってきたら、並行して実際の移転準備を進めておくとよいでしょう。
□各業者の選定
オフィスのレイアウトがまとまってきたら、内装工事業者、電話やインターネット、コピー機などの専門業者、
引越しを担当する業者などを選定する必要があります。
オフィスの設計業者がこういったサービスもワンストップで提供してくれる企業であれば、
施主側は内容や金額をチェックするだけで済む場合もあります。
□従業員への説明
新しいオフィスのプランがまとまったら、従業員にオフィス移転計画の概要を説明する必要があります。
オフィス移転の趣旨と内容に賛同してもらえるよう、わかりやすい資料にまとめるなど伝え方の工夫が必要となります。
□働く環境作り
円滑かつ効果的に新しいオフィスへの移転、適応を促すためには、運用ルールや利用方法などをまとめておく必要があります。
基本的な利用方法(入退館の方法など)はもとより、会議室予約の方法、新設された機能(カフェ、1人用web会議用ブースなど)、
新しく採用された働き方(フリーアドレス、ABWなど)などを具体的にどう活用すればよいのか、
ドキュメントとしてまとめ従業員に周知しておくことが必要です。
失敗しないオフィス移転にするために
次にあげる3つのポイントを押さえることで、オフィス移転における失敗を回避することができます。
□目的の明確化
オフィス移転の明確な目的を掲げておくことは、プロジェクト中に難しい決断を迫られたり、
問題が発生した際に立ち返ることのできる拠り所として機能します。
したがって、労力や費用の投資判断を間違えたりするような失敗を回避することができます。
□無理のないスケジューリング
オフィス移転では、決定しなくてはならないことが広範囲に及ぶため、十分だと思えた設定期間もあっという間に過ぎてしまいます。
スケジュール通りに遂行すること自体が難しいプロジェクトも少なくありません。
スケジュールが短ければ短いほど選択肢は狭まり、不要な費用が掛かる可能性が高くなります。
したがって、できるだけ準備期間は長めに確保しておくことをお勧めします。
□従業員に対する配慮
移転先のオフィスを実際に使用するのは従業員です。
経費削減などネガティブな理由で移転を余儀なくされる場合はもとより、
新しい働き方に挑戦するプロジェクトとなる場合は、特に十分な説明とケアが必要となります。
説明とケアが十分になされなかった場合、優秀な人材が退職してしまうなど問題が発生する可能性があります。
移転日前日から移転後のチェックリスト
最後に、移転前日および移転後の動きについてみていきましょう。
ー移転日前日チェックリスト
□荷物の梱包を完了させる
梱包開始と完了の時間を定め、時間厳守を徹底し梱包を完了させるようにしましょう。
出張者や非常勤者などのスケジュールを加味し、なるべく早めに情報を回覧することがポイントです。
移転前日は必要最低限のアイテムを使用して業務するよう従業員に周知し、その他は余裕を持って梱包を完了させるようにしましょう。
共有物は管理者が明確でない場合が多いので、梱包漏れがないよう注意が必要です。
□従業員を現場から退出させる
移転前日は何時までにオフィスを退出する必要があるのか、従業員にあらかじめ連絡しておくことが重要です。
責任者以外は梱包完了後速やかに完全退出とすることで、スムーズに引っ越し作業を開始することができます。
□システムをダウンさせる
一般的に、移転当日にはまずシステム関連機器から優先的に移転先に運び出します。
したがって、システムをシャットダウンする時間を事前に従業員に通知しておく必要があります。
□行き先不明の物品や残置物のチェック
引っ越し作業中、立ち合い者は主に運搬される荷物や什器に間違いはないかの確認をします。
また、行き先不明や廃棄するかどうか業者では判断できない物品があった際の対応をする必要があります。
このような物品が大量に発生すると作業に支障が出るので、やはり事前の確認が重要です。
ー移転後チェックリスト
□個人荷物の開梱
新オフィスでの業務開始日には個人の荷物は従業員自身で開梱、整理収納することが必要です。
それなりに時間がかかる作業なので始業時間に通常業務が始められるよう、早めの出社を促すなどしたほうが良いでしょう。
□廃棄作業
個人の荷物の開梱作業が完了すると、使用済み段ボールが大量に発生します。
段ボールの集積場所とその方法は事前に決定し、アナウンスしておくことが重要です。
また、煩雑にならないように折を見て集積場所をチェックすることも必要となってきます。
一般的に、集積された段ボールは引っ越し業者に引き取ってもらいます。
□オフィス利用説明会の開催
移転直後は新しいオフィスについて質問やクレーム、使用方法についての提案などが相次ぎます。
電話やコピー機などを新しくした場合や、新設のエリアや什器などがある場合は、
早く新しいオフィスに慣れてもらうためにも使用方法やルールなどを従業員に周知することが大切です。
場合によっては、説明会の開催が必要なこともあります。
□作業完了の確認
移転後数日経過すると通常業務に追われ、開梱作業が進まない従業員や部署もでてきます。
開梱されない段ボールが置きっぱなしになっていたり、
整理整頓が進まないとなれば、せっかくの新しいオフィスも台無しになってしまいます。
いつまでに作業を終わらせるのか日時を決め、全体に周知し徹底させるようにしましょう。
まとめ
オフィス移転は目的を明確にしたうえでプロジェクトを遂行することが最も重要です。
そうすることで、もし失敗した点があったとしても移転後に原因を究明し、改善することが可能となります。
移転後もオフィスを常にブラッシュアップできる環境づくりこそが、オフィス移転成功の近道といえるでしょう