Title Image

ダメにならないワーケーションの上手な活用方法

ダメにならないワーケーションの上手な活用方法

テレワークの浸透によって働く場所の選択肢が増えた今、注目を集めているのがワーケーションです。
企業や政府、地方自治体はワーケーションという働き方を浸透させようと様々な取り組みを始めています。
上手に活用するための方法を一緒に考えてみましょう。
これからワーケーション制度を検討したい会社は必見です。

ワーケーションとは?

ワーケーションという言葉は「ワーク」と「バケーション」のいわゆる造語です。
アメリカ生まれの働き方とされていますが、実は海外ではあまり広まっていないようです。
一方日本ではテレワークが浸透したことにより、ワーケーションも身近な働き方になりつつあります。

言葉の知名度があがるにつれ、様々な形態のワーケーションが生み出されています。
JR東日本が運営しているwebマガジン「and E」掲載の記事の中で、日本型ワーケーションは下記の4つに分類されています。

出典:andE 「日本型ワーケーション」の可能性と課題 ワーケーションのすすめ(前編)

休暇活用型

休暇活用型は仕事中毒、つまりワーカーホリックな人向けといえるかもしれません。
休暇中に仕事がたまることがストレスとなり、落ち着いて休暇を楽しむことができない人もいます。
こうした人にとって、ワーケーションはプライベートと仕事を両立させることができる最適な制度といえます。
しかし、制度設計を間違えると「休暇中にも働かなければならないのか」という誤解を招く可能性もあります。

     

日常埋込型

日常埋込型はリゾート地への一時的な転勤というスタイル。
企業によっては住居付きのサテライトオフィスを利用し、部署まるごとリゾート地などへ短期間移住する試みを始めています。
普段とは全く異なる環境で生活することで、効率や創造性が増したといった報告もあります。

   

ブリージャー型

ブリージャーとは「ビジネス」と「レジャー」を組み合わせた造語で、出張と休暇の日程を連続させることで合理的に休暇を楽しむスタイルです。
出張後に休暇へそのまま突入できるため、移動が少なくて済みます。
出張先の観光やレジャーでリフレッシュをしながらその土地の情報を得ることで、商談もスムーズに進む可能性があります。

    

オフサイトミーティング型

オフサイトミーティング型は、いわゆる社員研修や合宿と何ら変わりはありません。
企業側がワーケーションのコンセプトを明確に把握できていないために生まれた別称といえます。
企業側主導で研修、合宿と観光を詰め込んでしまい、ストレスの多いワーケーションとなってしまった失敗例もあります。

・ワーケーションとテレワークの違い

ワーケーションとテレワークとの最大の違いは働く場所にあります。
一般的にテレワークをする場所は自宅、最寄りのサテライトオフィスやカフェなどに限定されます。
ワーケーションの場合は国内外のリゾートや観光地、農村など普段と全く異なる環境で働くことが可能です。

テレワークでは大抵の場合、就業時間は通常の就業時間に準ずることになります。
一方で、ワーケーションでは働く時間も自由度が増します。
その代わり、労務や勤怠管理などの制度を整備しておかなければ職場トラブルに発展しかねません。

企業がワーケーションを推奨した方がいい理由

2020年に株式会社NTTデータ経営研究所が共同実施した調査によって、ワーケーションをすることによる心身への影響が科学的に実証されています。
ワーケーションを通じて企業はどのようなメリットが得られるのでしょうか。

    

ー社員満足度の向上

ワーケーションという体験は参加者の感情面に良い効果があることが報告されています。
下のグラフでは、ワーケーション期間中に参加者の企業に対する思い入れや帰属感が高まることが示されており、従業員の満足度が向上していることがわかります。

 

ー生産性の向上

ワーケーションを通じて仕事の生産性が向上し、その効果はワーケーション期間後も持続することが示されています。

出典:株式会社NTTデータ経営研究所 ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与する ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施

  

ー健康への影響

精神的、肉体的な健康効果も確認されています。
精神面ではストレスや疲労感が軽減され、活力が増すという結果が示されています。

身体的には歩行量の増加が示されており、ワーケーションをすることで体を動かす機会が増え、健康増進効果があることがわかっています。

出典:株式会社NTTデータ経営研究所 ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与する ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施

ー優秀な人材の確保

2020年に内閣府が就業者6,653人を対象に行った調査によると、20代の就業者は他の年代よりもワーケーションに対する高い関心を持っていることが示されています。
今後はワーケーションが社内制度として確立されているかどうかが、将来を担う優秀な若手を確保するためには重要な要素となりそうです。

出典:内閣府 第2回 新型コロナウィルス感染症の影響化における生活意識・行動の変化に関する調査

デメリット

ーワーケーションを実施しにくい理由

2020年に国土交通省がおこなったテレワーク人口実態調査によると、ワーケーション実施にあたっての不安と課題について、ワーケーションをしてみたいと回答した人のうち約50%が会社の制度上認められていないことをあげています。
ワーケーション導入にあたっては会社の労務や就業規則を見直し、制度を整備する必要があります。

出典:国土交通省 令和2年度 テレワーク人口実態調査 -調査結果の抜粋-

ー良くないワーケーションとは

よくある間違いとしては、ワーケーションを義務化してしまうことです。
ワーケーションはあくまで休暇を取るための1つの選択肢であり、誰かに強制されるものではありません。
ワーケーション導入にあたっては、コンセプトをよく確認することが大切です。

    

ー実施すべきでない企業

なかにはワーケーションが不向きな企業も存在します。
近年、「働き方格差」として取り上げられている問題はワーケーションにも当てはまります。
通信環境や情報セキュリティ、労務管理制度が整備されていない企業は、ワーケーションを導入すること自体が混乱を招く恐れがあります。
導入前に環境を整えることが必要です。

 

ワーケーション実施時の働き方の例

どのようにワーケーションを始めればよいのか具体的な事例に沿って確認しましょう。

・就業規則の見直し

ワーケーションを制度化するにはまず、就業規則を見直さなければなりません。
ほとんどの企業において、既存の就業規則ではワーケーションに対応できないのが実情です。
また、冒頭に記載した4つのワーケーションタイプのうち、どのタイプを導入するのかによっても注意すべき点は異なります。

なかでも休暇活用型は、労務管理が最も複雑です。
ワーケーションの定義が法律で定められているわけではありませんので、導入する企業において独自に判断する必要があります。

勤務時間と休暇時間の線引きをするため、ワーケーションをどのように位置づけるのか明確にしておく必要があります。
休暇に重きを置いたとしても、休暇中に1時間メールチェックをすればそれは労働となり賃金が発生します。

どのように勤務時間を報告、管理するのかもあらかじめ定めておく必要があります。
自己申告制にしても、PCログでの管理にしても、最後は従業員と管理者の信頼関係に頼ることになるでしょう。

日常埋め込み型の場合は通勤地と居住場所が一定期間変わるだけなので、労務管理という面では従来通りの方法で対応可能でしょう。

ブリージャー型では、休暇の前または後に出張の予定を組むだけなので非常にシンプルです。
休暇中はきちんと休暇として過ごすことで、労務管理の問題は解決されるでしょう。

・ワーケーション用のプランやサービスを利用

大手旅行会社をはじめとした観光関連各社は、多様なワーケーション用プランを積極的にプロモーションしています。
パッケージプランを活用することで煩雑な手続きや調整を省くことができ、よりスムーズにワーケーションを活用することができます。

例えば株式会社JTBでは、ワーケーション総合情報サイトを設け豊富なワーケーションプランを提供しており、個人向けはもちろん企業と地方自治体を結ぶ取り組みに力を入れています。
ワーケーションの知識や情報を得られるだけでなく、ワーケーションの検討、導入に向けても非常に参考になります。

星野リゾートでは各滞在施設の特性に合わせ、多様なワーケーションプランが用意されています。
仕事、休暇ともに充実した時間を過ごせるよう工夫されており、1泊からのプランも提供しています。

   

ワーケーションの上手な活用方法

・ワーケーションの事例

前述した株式会社NTTデータ経営研究所の調査には他にも株式会社JTB、日本航空株式会社が参画しています。
休暇活用型のワーケーションタイプが採用され、各社の従業員が被験者として参加しています。
およそ3日のワーケーション期間で上述したような効果が確認されており、ワーケーションのやり方として非常に参考になります。

出典:株式会社NTTデータ経営研究所 ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与する ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施

旅行業界以外でワーケーションを導入している代表例としては株式会社野村総合研究が挙げられ、発展的なワーケーションとして観光庁のウェブサイトでも紹介されています。
徳島県三好市の観光名所に設けられたサテライトオフィスに数名の従業員が毎年派遣され、約1ヶ月にわたって日常埋込型のワーケーションを体験します。
サテライトオフィスには従業員食堂、カフェの他、宿泊施設も併設されており、従業員は基本的にこの施設で共同生活を送ることになっています。
地域住民との交流プログラムの開催やボランティア活動への参加など、ワーケーションが地域に還元されています。

   

ーワーケーションの推奨地域

政府の後押しもあり、多くの地方自治体が企業のワーケーション誘致に前向きな姿勢を示しています。
そのなかでも、日本有数の避暑地を擁する長野県はワーケーション推進の急先鋒です。
2019年より「信州リゾートテレワーク」というwebサイトを立ち上げ、県内の市町村に根差したモデルプランを紹介するなど情報を発信し続けています。

人気の観光地である沖縄県もワーケーション誘致に力を入れている自治体のひとつです。
観光、ビジネス、ワーケーションを絡めたプロジェクトを多数展開しています。
内閣府によって運営されている専用サイトの「テレオキプロジェクト 働く、が変わる TELEWORK」にて、施設検索、利用者の声を紹介するなど情報提供を行っています。

・理想的なワーケーションの姿

ー実は個人的に実施しているワーケーターの存在

今後、ワーケーションが定着するかどうかを占ううえで重要となるのが「隠れワーケーター」の存在です。

2021年に株式会社クロスマーケティングと山梨大学が共同で行った調査によると、隠れワーケーターの割合が回答者全体の約4割を占めていると報告されています。
隠れワーケーターとは同調査において会社の制度を利用せずに、あるいは会社に制度がないために個人的にワーケーションを行っている人たちを指しています。
制度の有無に関わらず、会社が把握していない隠れワーケーターがこれほどいるとは驚愕です。
改めてワーケーションのニーズの高さと、安心して利用できる制度の重要さを明らかにした調査結果といえるでしょう。

ワーケーション制度を導入しても従業員が安心してワーケーション制度を利用できなければ、働く環境の改善はもちろん、制度自体が無駄になってしまう可能性もあります。
理想のワーケーションを実現させるためには、それぞれの企業の特性や従業員の要望も反映しながら制度設計を進めていくことが大切です。

出典:山梨大学 ニュースリリース ワーケーション実施者1,000人に実態を聴取

  

まとめ

新たな働き方として注目を浴びるワーケーション。
働き手はもちろん、人口の都市集中化によって寂しくなる地方にとってもワーケーションは明るい兆しとなりそうです。
企業は従業員が能力を最大限に発揮できる職場環境を構築するために、ワーケーション制度を導入検討してはいかがでしょうか。